経済学的思考のセンス ☆☆☆

経済学的なモノの見方や考え方がわかりやすく理解できる本。

前半はイイ男と結婚の関係、プロ野球の戦力均衡、オリンピックのメダル予測、ゴルフトーナメントの賞金構造などなど、とても身近な内容を扱っていて親しみやすい。
一方後半は公的年金、年功賃金制度、成果報酬制度、格差社会などなど、わりと固めのテーマになっていて非常に対照的な感じになっている。

前半でとっつきにくい経済学について親しんでもらったら、そのままの勢いで後半の重要なテーマに突入、といきたいところだけどちょっとギャップがあって厳しいかも。この前半と後半の違いはひょっとすると元になった原稿が違うからなのかもしれない。(あとがきによると前半の2章は「産政研フォーラム」という季刊誌のエッセイから、後半の2章はそれぞれまた別らしい。)

もっとも私は後半の年功賃金と成果主義に関する経済学での仮説などがとても興味深かった。人によって読んだあとの印象がずいぶん変わる本なのかもしれない。

ということで気になった内容のメモ

  • 年功賃金が存在する5つの理由(仮説)
    • 人的資本理論: 勤続年数とともに個人の技能もあがる
    • インセンティブ理論: 若い時は個人の生産性以下、年をとると生産性以上の賃金制度にすることで、まじめな勤務を促し規律を高める(一種の供託金として機能する)
    • 適職探しの理論: 企業の中で個人が適職を見つけていくことで生産性もあがっていく
    • 生計費理論: 生活費が年とともにあがっていくのに賃金もあわせる
    • 習慣形成理論: 生活水準を下げるより、徐々に上げていくことを人は望む
  • 成果主義が労働意欲を高めるためには、同時に能力開発の機会も増えることが必要
  • 経済学的思考の本質は、人々のインセンティブという観点から物事を見直すという点にある
  • 人間の行動原理には金銭的インセンティブと非金銭的インセンティブの両方が関係する
  • インセンティブへの感応度を知る際に重要なことは、因果関係を正確に理解すること
  • 相関関係があるからといって必ずしも因果関係があるとは限らない

著者は『「経済学的思考センスのある人」というのは、インセンティブの観点から社会を視る力と因果関係を見つけ出す力を持っている人』だと述べている。これは普段から意識しないとなかなか身につかない力ではないかと思う。

ちなみに経済学的思考をするには数学的思考が必須だと思うのだが、数学的思考のセンスを磨くには、「数学的思考法―説明力を鍛えるヒント 講談社現代新書」がおすすめ。